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 講 演 要 旨


ジャズピアノ演奏&作曲と理論物理学との関係を語る
廣池英子 (ジャズピアニスト)




 芸術活動(音楽の作曲、演奏等)と物理の研究は、一見非常に異質なものに思われるが意外と本質的には似ているところがある。両方とも、人間による自己表現であるが、工業や農業の様に社会に具体的な利益をもたらさない。そのため、発祥期には、スポンサー(例えば王とか貴族等)による経済的援助が必要であった。現在でもこの事は本質的には変わっていない。ただ、スポンサーが政府とか、一般社会人になっただけである。では、両者の間の本質的な違いは何かというと、物理の観察対象は人の感情が入りこむ余地のない自然現象であるが、芸術では逆に人の感情が生み出す現象(美、愛、喜怒哀楽等)が表現されるべき対象となる。しかし、両者の間に共通して求められるのは、表現者の独自性(オリジナリティ)である。
 さて、人類の持つ芸術は大きく分けると絵画(彫刻も含む)と音楽であるが、この2つを物理的に記述すると、前者は光の反射波を鑑賞しているのに対し、後者は音の発進波を愛でているのである。従って、前者は反射されるべき波がすべて揃っていなければ(即ち白色光の下)鑑賞出来ないが、後者は余計な波が存在しないこと(即ち静寂)が必要条件である。又、前者では3次元の空間座標が必要であるが、後者では時間軸の存在が重要である。そのため、音楽の演奏では時間に対する体感(リズム感)が重要視される。

本論
 ジャズの作曲及び演奏は、通常の西洋音楽と同様平均律に従って行なわれる。いわゆる、ド(C)レ(D)ミ(E)ファ(F)ソ(G)ラ(A)シ(B)ド(C)である。しかし、ピアノの鍵盤を見ればわかる様に、ドとレ、レとミ、ファとソ、ソとラ、ラとシの間に半音(ハ長調なら黒鍵)が存在する(図1.参照)。そのすべての音を円板上に並べて見ると半音づつの音のへだたりで12個の音が等間隔に並ぶ(図2.参照)。ドレミファソラシドにとくに太線で記しをつけた。通常の西洋音楽ではこの音階が主流であるから、作曲は主として記しづけをした音を使って行なわれ、他の音は曲に陰影を与えるために挿入される。この音階(メジャー・スケール)の他に、マイナー・スケール、ブルノートスケール、ホールトン・スケール等いくつかの音階があるが、みな12個の音のうちの何個かを主要な音として音階の音列を作っている。
 しかし、物理的に考えると、円板上に並んだ12個の音は全く同等である。12音は、円の中心を回転の中心とする12回・回転群の単位によって互いに置換することが出来る。鏡影によって組み合わされているC−Gb、D−Ab、E−Bb等の音対は、紙面に垂直にばっさりと切り落したイメージからも推察される様に、鋭い不安定な感じがする(図3.参照)。一方正方形の机の足の様に直角の回転で結ばれた4音、C、Eb、Gb、Aを同時に鳴らすと、この中には鏡影によって置換される音対が混じっているにもかかわらず、安定した美しいサウンドが得られる(図4.参照)。この様に円板上に描かれた視覚から来る物理的イメージと発せられる音(サウンド)との間には或る種の関連性がある。
たとえば12音同等のスケール(クロマティック・スケール)で作った曲の中で便利に使える内部のメロディーとしてホーストンスケールが多用されるが、このスケールの音は、物理的には平面を最も能率的に覆うことの出来る正六角形を形作っている(図5.参照)。
作品例として
メジャー・スケールによる曲 I love you so much! Sea & the Sky
マイナー・スケールによる曲 雨の日のオルゴール、エレジー、
ブロークンヨット
クロマティック・スケールによる曲 Anxiety、ミレニアム・ワルツ、
Rsychedelic Phonon Dance



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