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 講 演 要 旨


遺伝子からみた生活習慣病
池田 啓子 自治医科大学分子病態治療研究センター細胞生物研究部



本日の話の流れ

 1 生活習慣病と遺伝子との関係
 2 遺伝子とは何でしょう (ビデオ上映)
 3 生活習慣病に関わる遺伝子変異の例(モデルマウスの紹介)
 4 個人個人がもつ遺伝子配列の違いをみつける方法(自治医大COEプロジェクトの紹介)

生活習慣病患者は、全国で6500万人以上いますが、治療を受けているのはその1/4といわれます。今後増えて大きな社会問題となるでしょう。 成人病とも言われますが、これは加齢に着目している言い方です。がん、脳卒中、心臓病のかかる人は40歳から60歳くらいの働き盛りに多く、全死因の中で上位を占める病気です。(1957年 厚生省)また糖尿病、痛風 などの壮老年期に多い病気も含まれます。

生活習慣病(平成8年厚生省が提唱)は若い頃からの生活習慣が深く関わって発症する病気です。つまり 小児期から健康づくりに励まなくてはなりません。ちなみに座りがちの生活は3歳児から始まり、3歳児の平均の活動時間は20分に過ぎないというデータもあります。これでは間違いなく大人になると生活習慣病にかかることになります。とは言っても、各々ライフスタイルは違うから、本や医者の言うとおりにできない!また、たとえ同じ生活をしていても病になるヒトとならないヒトがいて、生活習慣病は完璧な対策がとりにくいし、努力していても実らないこともあります。一般の人は、不確定要素が多すぎると考えてしまいます。それに現在では充分な情報がありません。

生活習慣病は、
1.遺伝的要因 
2.環境要因・生活習慣
  が重なり合って発症する病気です。

遺伝的要因は、遺伝子が決めています。
遺伝子とは  “遺伝子”= “遺伝” +“(因)子” で
親から子へ伝わる(遺伝する) 因子(体の設計図)です。

親から子へ伝わるものはいろいろあります。
 外見、体質、性格
例)顔つき、身長、体重、つむじ、耳あかの湿り具合、巻き舌ができる・できない、髪の毛の質、お酒に強い・弱い、血液型など 、怒りっぽい性格、、、、

「遺伝する体の設計図(遺伝子)」は 父と母から1つづつ受け継いでいます。

実はひとにより少しずつ内容が違っています。この微妙な違いが遺伝子の個性を決めるわけです。

*遺伝子はいったいどんな物質なのでしょうか?
*遺伝子はヒトの体のどこにあるのでしょうか?
*遺伝子はどのようにして働くのでしょうか?
具体的に”ポルタトーリ”の例で ビデオ(協力 NHK出版会)を使って説明します。

ビデオ開始―――――――――――――――――――――――――――――
ヒトは60兆個の細胞から成り立っており、細胞の中に核があり、核の中に46本の染色体がある。染色体は1本の細く長いDNAと呼ばれる糸であり、長さは2m、太さは髪の毛の4万分の1である。DNAの一部が遺伝子である。この糸は2本の糸が螺旋状により合わされ、A,T,G,Cという物質から成り立っている。この文字の並び方 が遺伝子の暗号であり、46本の染色体の暗号の文字は60億対にもなる。ヒトの設計図は、A,T,G,Cからなっている。

世界で38人しかいない、動脈硬化を防ぐ遺伝子:ポルタトーリを持つ人々がイタリアのある村に住んでいる。ポルタトーリのヒトは、血液の流れがよくコレステロールがたまりにくく長生きだと言われる。ポルタトーリと普通の人の違いは、染色体の11番目の1文字がちがう。アミノ酸 CGC(一般人)とTGC(ポルタトーリ)のようにCとTとが違っている。

遺伝子の仕事はタンパク質を作ることにある。20種類のアミノ酸から作る。
タンパク質には、ケラチン、アクチン、ミオシン、キネシン・・・・等がある。
ヒトの設計図は、約3万2000個のタンパク質の設計図の集まりといえる。
―――――――――――――――――――――――――――――――ビデオ終了

親から子へ伝わる体の設計図は、 外見、体質、性格 だけでなく 疾患へのかかりやすさ、も決めているのです。

体の設計図(遺伝子)は
G・A・T・C(塩基)と糖、リン酸が並んでつくられる(塩基配列)情報です。
この塩基配列には疾病として明らかにならなくても、ひとりひとりわずかな違いがあります。このようなわずかな設計図の違い(0.1〜0.2%)から体質の様々な個人差が生じます。

酒に強い、弱いという個人差=アルコール分解酵素 の遺伝子の一文字の違い

父から 母から
 G   G    酒に強い
 A   A    酒に弱い
 G   A    酒は飲める
 A   G    酒は飲める

1989年 国際ヒトゲノム機構発足 
“ヒトの設計図(塩基配列:30億)を全部読んでやろう!”
2003年4月14日 ヒトゲノム完全解読完了
30億のヒトの塩基配列を読み尽くした(ある一個人の塩基配列)
解読に日本は6%の貢献をしました

わずかな設計図の違い(0.1%)
DNA多型といいます。そのひとつ SNP(スニップ) または一塩基多型 といいます。
このわずかな違いが個人個人の疾病へのかかりやすさを決めています。
どのようにして候補遺伝子のわずかな違いをみつけようか?

現在の医学研究の方向
@ 個人個人の遺伝子のSNPを調べ、疾病のかかりやすさ・体質と照らし合わせて、遺伝子SNPと生活習慣病の相関を見つけるという方向。

わずかな設計図の違い(0.1%)

SNP(スニップ)
 
このわずかな違いが疾病への罹りやすさを決めています。
SNP解析をすると、、、
自分はどんな体質かということが遺伝子のレベルでわかります。
・どんな病気になりやすい?
・どの薬が最も効くか?
・薬の副作用のでかたは?

問題点があります。
生活習慣病は遺伝病と違って複数の遺伝子が複雑にからみあっていると考えられますし、しかも発症にはさまざまな生活習慣が影響します。
さまざまな生活習慣 × 300万塩基の違い =生活習慣病
の情報をすべて明らかにしなければなりません。

Aさまざまな遺伝子をモデル生物で壊してみます。もし生活習慣病モデル動物(マウス)ができたら、その遺伝子が生活習慣病と深く関わっているとわかります。

遺伝子操作を加え、遺伝子を破壊する(遺伝子組み換え動物をつくる)。
なぜマウスを使うの?遺伝子の数が人間に近いこと。20日で大人になること。哺乳動物であること。

生活習慣病モデルマウス

ストレスに弱い
不安が強い
↓(この過程を研究中)
昼間食べる

肥満

(脳卒中に罹りやすい)

短期発ガン性試験用マウス
骨粗鬆症モデルマウス ヒト早発性老化症候群マウス
http://www.clea-japan.com/animals/b11-top.htm より

自治医大ゲノムバンク構想(COEプロジェクト) 大規模SNP解析

『新たな生活習慣病対策に向けて
生活習慣病予防のための体質調査
自治医科大学「21世紀COEプログラム」
大規模地域ゲノムバンク推進チーム
*この調査の正式名称は
「大規模地域ゲノムバンクを用いた生活習慣病の分子遺伝学的解析」
文部科学省の支援をうけ自治医科大学が中心となって、地域での健康の向上を目的に調査をおこないます。
自治医科大学学長 高久史麿』

自治医大のメリットとして
いろいろな地域からの情報が得られますので、地域ごとの差も得られ、そして日本人全体の情報が得られます。

さて、生活習慣病とはなんでしょう。
体質や運動、食事、酒、たばこなどの生活習慣が密接に関わる、高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病、脳卒中、心臓病などの病気のことです。これらの身近な病気にも遺伝による体質が大きく関わっていると考えられています。これらの体質に関係している遺伝子を見つけ出したいと私たちは考えています。

高血圧症を例にとると、
環境要因として、塩分、たばこ、食べ過ぎ、ストレスなどがあり、さらに体質要因が加わって高血圧を発症します。
遺伝的要因って何?
顔かたち、背丈、ある病気へのかかりやすさなどの体質は親に似ます。健康にはこのような体質とともに生活習慣などの身の回りの環境も大きく関係しています。健康を守るためには自分自身の体質を知り、体質に合わせて習慣や環境を整えることが大切です。

高血圧に関係した遺伝的要因・体質って何でしょうか。
高血圧になりやすい体質にはたくさんの種類があります。多くの体質を重ね持った人ほど高血圧になりやすいと考えられています。
例えば
 塩分で血圧が上がりやすい体質
 血圧を調整するいくつかのホルモンに関する体質
 動脈硬化が進みやすい体質
などです。

塩分摂取で高血圧になりやすい人もいればそうでない人もいます。塩分摂取で高血圧になりやすい人は塩分遺伝子を持っていると考えられ、それを調べることによって
「遺伝子あり」の人は 塩分制限を優先し、「なし」の人は その他の治療を選ぶことになります。
このように体質がわかれば予防や治療に役立ちます。

血圧を下げる薬の選択
多くの高血圧に関係する遺伝子を調べることによって、その体質に合った薬を選ぶことができるようになるかもしれません。これらをオーダーメイド医療といいます。

参加のお願い
ご協力いただいた皆様より5ml採血させていただき、自治医科大学にて遺伝子を抽出いたします。併せて健康に関するアンケートおよび日頃の検査結果を参照させていただき、生活習慣病との関連を解析いたします。

対象となる病気は、
高血圧症、高脂血症、肥満、糖尿病、脳卒中、心臓病、慢性肺疾患、肝炎です。
これらの病気の体質に関係した遺伝子を調べます。

プライバシーについて
あなたの病気や体質に関する情報が、他人に漏れることはありません。解析前にあなたの名前と調査票は切り離されます。これによりあなたの名前と調査結果を照らし合わせることはできません。名前と調査票を切り離す前であれば参加を取り消すこともできます。

今回の血液検査ではあなたに検査結果をお返しできません。例えば地域ごとの体質の傾向がわかります。その地域に適した予防活動につながっていきます。そして調査の結果は私たちの子供や孫たちへの大きな財産となるでしょう。ぜひとも調査へのご参加を深くお願い致します。

お問い合わせは
ご受診の医療機関、もしくは
自治医科大学「21世紀COEプログラム」
大規模地域ゲノムバンク推進チーム

 〒329-0498 栃木県河内郡南河内町薬師寺3311-1
  電話 0285(58)7394
  FAX 0285(44)0628
  メール coegbank@jichi.ac.jp

 まで、お気軽にご相談ください。

まとめ
生活習慣病の発症には、2つの要因がからみます。
遺伝子
生活習慣
遺伝子のわずかな差が、同じ生活習慣でも発症するヒトとそうでないヒトの差を生じさせます。
・個人毎の遺伝子のわずかな差(SNP)も考慮した生活習慣病対策が今後の医療が目指しているところです。
・原因を知ることにより一番有効な対策をとることができます。
・最も効く薬を選択することができます。
・副作用が少ない薬を選択することができます。

個人毎の遺伝子のわずかな差を同定するシステムは日本の一部で今まさに始まったばかりです。


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