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 講 演 要 旨


日本の地震活動について:―世界一の稠密地震観測網で解ってきたこと・解らないこと―
石田瑞穂 海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター 特任上席研究員



日本は従来から地震列島と呼ばれているように、地震活動が極めて活発である。日本列島の面積は、世界中の陸域の面積の約0.3%に満たないにも拘わらず、世界中で発生する地震の約1割が日本列島周辺域で発生している。これは、私達が住む日本列島が、太平洋プレートとフィリピン海プレートとユーラシアプレートの会合するプレート境界域に位置していることによる。1995年兵庫県南部地震による阪神・淡路大震災以降、再びこのような災害を被らないために国の施策として日本には世界に類を見ない高密度・高精度・広帯域・広感度地震観測網が整備された。この観測網により、国内の地震活動の特徴が明らかにされてきただけでなく、日常的には地震発生に関する情報もマスメディアを通じて早く正確になってきた。最も期待されている地震予知は、世界一の地震観測網によっても未だ難しいが、ひとたび地震が発生した後の地震動の情報は予測情報なども含めて極めて迅速に伝達され、被害軽減の一翼を担うようになりつつある。こうした最近の成果について紹介する。

1.地震調査研究推進本部 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、約6,400名の死者を出し、10万棟を超える建物が全壊するという戦後最大の被害をもたらした。このとき、我が国の地震防災対策に関する多くの課題が浮き彫りにされ、それらの一つに、地震に関する調査研究の成果が国民や防災を担当する機関に十分に伝達され活用される体制になっていなかったことがあげられた。こうした課題を踏まえ、その年の7月に全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため、地震防災対策特別措置法が議員立法によって制定され、総理府には地震調査研究推進本部が設置(現・文部科学省に設置)された。こうした体制の下に、学識研究者と関係機関の職員から構成される政策委員会と地震調査委員会が設置された。 これらの委員会の下で、地震観測及び地殻変動などの観測施設の整備、活断層調査、今後の地震調査研究の推進方策や調査観測政策の策定が行われるようになった(図1)。その結果、それまで各研究機関で行われていた地震観測や地殻変動観測などが、国の施策として積極的に進められた結果、日本全国を対象とする均質で高感度な基盤的調査観測網(そのひとつが地震観測網)が整備された。

2.地震予知のための観測研究計画の推進 一方、1995年以降災害を予防し被害を最小限にとどめるための研究や技術の開発も国として様々取り組まれている。その一つが、7月9日科学技術・学術審議会で承認された「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」(建議)である。もともと地震予知計画は1965年に、火山噴火予知計画は1974年に始まり、5年ごとに見直されてきた。この地震予知計画は、1995年兵庫県南部地震による大きな被害を重く受け止め、これまでの計画の進捗状況について評価を行った。その結果、地震予知という困難な課題への展望を切り開くために「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」(1999?2003年度)が第1次新計画として始まった。この計画では地震発生に至る地殻活動の解明及び地殻活動モニタリングシステムの高度化のための観測研究および地殻活動シミュレーション手法と観測技術の開発を推進することを新たな目標として掲げた。この計画に引き続き第2次新計画(2004年?2008年)では、地殻活動の推移を予測することを目的とした現実的な物理モデルに基づいた数値シミュレーションモデルを開発することを目指した。 第2次新地震予知計画と第7次火山噴火予知計画が2008年度で見直されることになり、これらは同じ地球科学的背景をもつ自然現象であることと、測地学的・地震学的手法による観測研究として共同で進めることによって二つの現象の理解を一層深められると考えられることとにより、2009年度からの5カ年計画は統合して進めることになった。

3.新地震予知計画の成果と展望 2009年度からの五カ年計画「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について(建議)」の目玉は地震・火山現象の「予測システムの開発」を目指した観測研究である。 但し、「…を目指した研究」というように、地震発生の予測はとても遠い先にあるので、この計画は「今はこの方向を向いた研究を強力に進めます」という宣言である。これらの研究を推進するための最も有力な手段が、国の基盤的観測網と言われる世界一の稠密(ちゅうみつ)地震観測網(図2)と衛星利用測位システム(GPS)観測網である(図3)。

まず、新地震予知研究で分かった主要な四点を簡潔に紹介すると、 【アスペリティモデル】 地球を覆うプレートが沈み込む境界には、最後まで固着している部分「アスペリティ」があり、そこが滑ると大地震が起きる―というモデルが正しそうだと分かってきた。(図4) 【スロースリップ】 東海から西南日本にかけ、陸側プレートの下にフィリピン海プレート沈み込んでいる境界(深さ三十―四十キロくらい)で、三カ月から半年に一回ほど、数日から一週間かけてのゆっくりとした滑り(ゆっくり地震)が起きていることを確認した。(図5) 【内陸地震の発生モデル】 内陸地震発生の前段階で応力(地震を起こす力)が特定の断層域(アスペリティ)に集中していく様子がモデル化されてきた。(図6) 【予測モデルの原型】 巨大地震が繰り返し発生する領域で過去の地震の起き方を見ると、領域全部を一度に破壊する巨大地震が起こる時と、領域の一部を破壊する大地震が個々に起こる時がある。こうしたサイクルの特徴を表す予測シミュレーションモデルの原型ができてきた。(図7) 表現は必ずしも的確でないないかもしれないが、大まかにはこんなところだ。これらを総合して、地震予測に近づけようというのが、次の五カ年計画だ。 次期計画では、予測シミュレーションとモニタリング(観測・監視)を統合した「予測システムの開発」に絞り、次の四項目を柱に進めることになった。 ▽ 地震現象の推移を表現できる予測システムの開発 ▽ 予測システムを検証するための地震・地殻変動の観測研究 ▽ 新たな観測技術の開発 ▽ 計画推進体制の強化 最後に「推進体制の強化」とあるように、新計画でも関係する研究機関、研究者が協力して進める仕組みをつくり、予知研究を強力に進めるという姿勢を打ち出している。

4.地震災害軽減のために  地震調査委員会で推進した主要な課題の一つとして、全国を概観した地震動予測地図の作成がある。この地図(図8)は、長期評価部会で行われた活断層で発生する地震と海溝型の地震の長期的な地震発生の可能性の評価結果を用いて、強震動評価部で進められた強震動予測手法の高度化・標準化により取りまとめられた成果である。今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を色分けして示してある  一方、地震はいつ、どこで発生するかを事前に予測することは難しいということから、緊急地震速報の実現に向けた取り組みが成されてきた。その一つが2003年度から5カ年計画で進められた文部科学省「高度即時的地震情報伝達網実用化プロジェクト」である。そこで用いられたデータは、全国に展開されている地震観測網(防災科研:約800点、気象庁:約200点)のデータであり、リアルタイムで収集・解析することにより、少しでも早く地震の情報を伝えるための様々な研究が試みられた。その結果、2007年10月1日から緊急地震速報の提供が始められた。これは、地震発生後、最初に検知された地震波(P波)の情報を用いて、つぎに到達する主要動(S波)の時刻と震度(揺れの大きさ)を予告するものである。特に、学校、病院、工場などを対象とした、地震の即時情報の研究が様々な研究機関で進められている。  こうした最近の成果についても紹介する。


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