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 講 演 要 旨


伊藤 公紀

地球温暖化問題の見方 要旨

― 西洋的・東洋的メンタリティ、気温データの問題点、自然変動の重要性 ―

初めにかえて―地球温暖化の心理学 
 科学も人間の所作であり、心理的な制約を受ける。現代科学の心理的基盤は、歴史的由来により「西洋的メンタリティ」である。
その特徴[1]は「理想化・単純化・狭い視野」で、「直線的外挿」や「背景・文脈の無視」等の傾向を持ち、
気候変動政策のような複雑な対象には向かない。
一方、東洋的メンタリティは、複雑な対象を広い視野で「そのまま」捉える傾向があり、現実的な処理に適する。
IPCC (気候変動に関する政府間パネル)報告書では、温室効果ガスの気温・気候影響を強調する。
これは河川の流れを一つの水源で表現することに似ており[2]、まさに西洋的メンタリティによる単純化が見られる。
実際の河川が多くの水源と支流や複数の河口からなるように、気候システムも複数の変動要因と影響を考慮すべきであろう。
講演で紹介する幾つかの話題は、科学の観点からだけでなく、心理の観点からも見ていただくと理解の役に立つと思われる。

気温データの問題点―ホッケースティック曲線、観測環境の劣化
 年輪等の代替指標を基に、20世紀に急激に気温が上がったと主張するデータ(ホッケースティック曲線)は、2001年のIPCC報告書の目玉だった。
その後、データの質や解析の問題点が発覚したが、政策担当者等による引用は続き、「20世紀の気温上昇が人為的」という
認識の心理的背景の一つとなっている。
最近の観測によれば、20世紀の気温は「中世の温暖期」と同等だが、特に異常ではない[3]。
近年の温度計測定にも問題がある。マクロ・ミクロな都市化、測定自動化、用地確保の困難化等の影響で観測環境が劣化し、測定誤差が増している。
東北大学名誉教授・近藤氏によれば、ビニールハウス程度の構造物でも風速に影響して気温を0.3度程度上げる(陽だまり効果)[3]。

気温変動の原因―自然変動、宇宙気候学
 観測が進むに従い、地球気候における自然変動の重要性は増している。
例えば、熱・放射の収支の観測により、1970年以降の海表面温度の上昇は海洋の自然変動に起因すると解析されている。
原因の分からない自然変動も多いが、我々は太陽風に起因する気候変動に着目し、太陽風の変動と、成層圏・対流圏・地表の気温に良い相関を見いだした。
また、雲を通じた宇宙線の気候影響なども注目されており、新しい科学分野として宇宙気候学が成立しつつある。

結論―レジリエンスの重要性
 上述のような自然変動や、温室効果ガス以外の人為的因子は、現在の気候モデルでは取り扱いが困難であるため、
モデルを重視するIPCCの観点には必然的な限界がある。
社会のレジリエンス(弾力性・回復性)を強めることで、自然変動等に対応するアプローチが有効であろう[3]。
西洋的メンタリティに基づく「原因除去」と、東洋的メンタリティの「システム恒常性重視」との違いを感じていただけると有難いところである。

参考文献
1) ニスベット『木を見る西洋人、森を見る東洋人』ダイヤモンド社、2004年
2) 伊藤公紀、” 地球温暖化論のメンタリティ”、『パリティ』、27(1), 90-93, 2012年
3) 伊藤公紀・渡辺正『地球温暖化論のウソとワナ』KKベストセラーズ、2008年: 伊藤公紀・
  小川隆雄、”地球温暖化問題へのセカンドオピニオン”、科学技術社会論研究(9), 98-112, 2011年


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