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 講 演 要 旨


内藤 誠  家電メーカ勤務・技術者




 スマートグリッドが日本でも3.11以降、盛んに報道されている。しかしその内容は今ひとつはっきりしない。
それは主張する人によりその実現の目的が異なるからである。
定義が確定しないまま、多くの事業者がそれぞれの利益を目指して構想を語っている。
ここでは、そのいくつかの面を明らかにしながら、電力設備としての機能的な意味を示したい。
 スマートグリッドが世界で話題になったのは、グリーン・ニューディール政策を掲げたオバマ政権が
2009年2月に景気浮揚策として「米国再生・再投資法」に基づきスマートグリッド補助事業を開始したときからである。
しかし実際に登場したのは、USでは2003年頃まで遡る。
そこでは電力の自由化のひずみをスマートグリッドで解決すること、さらに電力自由化自体をスマートグリッドの拡大により実現し、
企業利益を上げようとする取り組みであった。
一方、欧州では、主に自然エネルギーの発電割合を増加させるためにスマートグリッドの導入が図られている。
 「グリッド」とは電力網を指し、発電、送電・変電、配電と消費者までの系統全体を言う。
そこでスマートグリッドとは「賢い電力網」という意味になるが、ここでは簡単に
「ICT(Information and Communication Technology 情報通信技術)を使って電力の需要と供給を最適に制御する発送電システム」と定義しておく。
 スマートグリッドについて最近TVなどで話題になるのは、スマートメータである。
家庭の電力計に電力消費量をICT経由で外に情報提供する機能が付加されたものである。
これにより家庭内の電力消費状況を分析できるようになり、その家庭に対して専門家によるライフスタイルの改善アドバイスを与えることが可能になる。
また住人、自らも家庭の消費電力の状況がつかめ、省電力を進めるように動機付けられる。(「見える化」と言われる)
しかし、家族構成や家庭の生活パタンが外から丸見えになり、プライバシーが問題になっている。
スマートメータの無料サービスとして提供されていた”Google PowerMeter”や、”Microsoft Hohm”は、現在、中止になっている。
米国では家庭を含めてスマートグリッドによりICT化を計ることにより、インターネットの次を狙った市場の開拓を図るICT関連企業が群がっている。
 スマートグリッドには、家庭のスマートメータに加えて電力系統全体の安定化を図る機能もある。
電力は特異な商品で、需要に合致した全く同一の電力量を瞬時に供給しなければならない。
これを保障するのが送配電システムである。米国では自由化が進む中でその投資が低調となり、
その結果、2000年から2001年のカルフォルニア電力危機、2003年のニューヨーク大停電を起こした。
カルフォルニア電力危機では、自由化の矛盾をついてエンロンなどの投資企業が電力の投機に走り、買占め売り惜しみなどを行った結果、停電を繰り返した。
ニューヨーク大停電では局所的な電力供給の不足が広範囲な停電を、ドミノ倒しのように引き起こし、多くの州にまたがって停電した。
いずれも米国の電力系統に問題があることが認識されたが、その問題はスマートグリッドを導入して、
需給をITC技術により最適に調整することによってこれを解決できるとしている。
 EUでは、太陽光、風力などの再生可能エネルギーの導入が各国を挙げて進められている。
太陽光発電、風力発電ともにその出力はその時の天候に敏感に反応するため、出力電力は安定性を欠く。
これを広範囲の地域を統合し、またバッテリーを多数配置して、スマートグリッドで有機的に結合することで電力系統を安定させようとする。
 日本では2010年より「次世代エネルギー・社会システム実証地域」として、
横浜市、豊田市、京都府(けいはんな学研都市)、北九州市を選定してスマートグリッドの実験を行っている。
 現在、電力系統に使われている交流電力網は、太陽光発電、風力発電の出力をそのまま繋げるには相性が悪いところが多々あり、
それらの技術的課題を解決するにはまだ時間がかかると思われる。また太陽光発電技術、バッテリー技術もまだ効率が悪く、発展途上にある。
しかしながら、化石燃料は有限であり、原発にこれ以降は頼ることはできないため、電力不足は恒常化するであろうし、
また不安定な再生可能エネルギーを使いこなしていくしかない。
そのためには、スマートグリッドで検討されている機能の中から本当に必要な機能を選び出し、それを解決する技術開発を進めることが求められている。


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