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 講 演 要 旨


宇宙から地球を観測する技術:リモートセンシング
富谷光良 成蹊大学理工学部



1.リモートセンシングとは 
 地球規模での環境をモニタリングするのにもっとも適していると思われる技術として、リモートセンシングが注目されています。リモートセンシングというのは、決して聞きなれた言葉ではありませんので、まずそれについてご説明いたします。
 リモートセンシングとは、この技術の総称をさす言葉として使用されている英語“Remote Sensing”をそのままカタカナ表記したものです。「遠隔計測」といった訳語も考えられたのですが、専門家の間でも普及しないままに終わっています。その意味は、広い意味では文字通り“離れて感じとること”ということになります。そこで、医療機器のCTスキャンや赤外線カメラ等も非破壊、非接触の観測という意味ではリモートセンシングに含める方もいらっしゃいます。しかし通常は科学技術用語としてリモートセンシングという言葉を使う場合には、航空機や人工衛星などから電磁波を用いて地球を観測する技術の総称として用いています。
 天文観測は、技術的にはリモートセンシングとほとんど同じものを使います。例えば、人工衛星を打ち上げて、そのセンサーから観測するのですが、我々は主に地球を観測します。もしその衛星を180度ひっくりかえし、空のほうを観測すれば天文学、天文観測ということになります。
 リモートセンシングというのは歴史の浅い技術です。日本リモートセンシング学会も2006年でようやく25周年で、新しい学会であるといえます。しかし、どのような分野に応用ができるのかというと、たいへん多岐にわたります。おそらくもっとも知られているのは『ひまわり6号』という衛星がとった画像でしょう。新聞やテレビ等の天気予報によく出てきますが、あれもリモートセンシング技術の一種です。それから、21世紀の我々には大変重要なことですが、環境を監視することも重要な応用分野となっています。地球全体の環境が今どうなっているのか、また5年前、10年前あるいは30年前と比較してどうなっているのかといったことに関して、かなり広範囲にわたって客観的な情報を得るには、これ以上の優れた技術はありません。
 それから災害に関する予防、監視も同様に重要な応用分野です。この場合は、実は人工衛星ではなくて飛行機を使う方が臨機応変に対応できて優れている、とも言われています。ただ、人工衛星も非常に進歩していますので今後はたいへん活躍するでしょう。
 私は、リモートセンシング技術の進歩とともに考古学への応用も重要性が高まっていくと考えています。たとえば熱帯雨林の奥にある遺跡、容易に人間が探査し得ないような場所であっても、人工衛星はまったく同じようにデータが取れますので、どこに遺跡があるのかというようなこともわかります。さらに、地中の比較的浅いところにあるものなら、一種のレーダーを使ってそこに何かほかと違うものがあるのがわかる場合もあります。このように、いろいろな分野に応用されています。普通このようなことをする技術を総称して、リモートセンシングと言います。
 リモートセンシングが観測するのは、多くは地球が反射した太陽光です。この反射光を人工衛星が観測しています。地球上の物質や表面に存在するものによって反射光の特徴が異なります。それを詳しく調べることによってリモートセンシングが可能となります。 しかし、それ以外に地球自ら放射する電磁波もあります。この場合は目で見ることができる可視光という電磁波に比べて、約十倍長い波長の熱赤外線という電磁波を多く放射しています。実は、地球の温度はそれで測ることができます。
 我々は軌道上に打ち上げられた衛星を用いて観測します。例えばオゾン層に穴があるとか、あるいは地球の温暖化がすすんでいるとか、その原因であると言われている二酸化炭素が多くなっているとか、あるいは、雨や気象の関係とか、海洋温度の調査、それから火山が噴火した時のデータの収集、などということもやっています。火山噴火や地震、津波の被害状況といったデータももちろん取得できます。あるいはもっと地道な話ですと植生や土壌がどうなっているかといったようなことも調べます。こういったシステムを維持し、データを収集するのは、日本単独では現在でもなかなかできません。今でもアメリカのNASA(National Aeronautics and Space Administration)等が中心になって活動しています。それでも日本ではJAXA(Japan Aerospace Exploration Agency)(元NASDA)、あるいはRESTEC(Remote Sensing Technology Center of JAPAN)と呼ばれる機関ががんばっていて、データを衛星からダウンロードしたり一般ユーザーに配布する業務をやっています。多くのリモートセンシング研究者もここからデータの配布を受けています。また、東海大、千葉大、高知大といったところでは、部分的にこれらの業務を請け負ったり自主的に行ったりしています。
 次に、地球観測衛星に関するリモートセンシングの特徴を述べます。まず、非常に広い範囲のデータを、非常に短い時間で取ることができます。『Landsat』という衛星の場合150km四方程度の観測を約24秒で行う事ができます。このようなことは衛星以外では不可能です。
 また、同じ地域のデータを長期にわたって、しかも定期的に観測することも大事な特徴です。例えば飛行機の場合、データを取りたければ飛行機をチャーターして飛ばす以外にありませんが、衛星の場合は地球を回っていますので一度軌道に乗せてしまえば、否応なしに定期的に飛んでくれます。
 第3の特徴は、直接現地に行く必要が無いということです。多くの学問分野、あるいは観測が必要なものだと実際に探査隊が行きます。例えばビクトリア湖がどこにあるのかというのはイギリスの探検家が長期間かけて調査し、ようやくナイル川の源流として辿り着いたという歴史がありますが、今では人工衛星で眺めれば一気に見えてしまいます。 50年も100年も苦労し続けることはないのです。
 第4の特徴ですが、それは人間の目で見ることができない情報でさえ知ることができることです。もちろんセンサーを打ち上げて観測しているのであって、人間の目で観測しているわけではありません。電磁波のなかで、人間の目で見ることができる波長というのは非常に狭い範囲です。だいたい0.3μm位の波長から長くて0.8μm位の電磁波しか我々は光として見ることができません。どうせセンサーを打ち上げるのですから、人間の目で見えないデータも、どんどん撮って画像化してしまえば良いわけです。

2. 地球観測衛星
 主目的が地表を観測する為の衛星もありますが、それ以外にむしろ海面、水などをテーマとして絞っているものもあります。『ひまわり』は気象衛星なので、どちらかというと地表を見るよりも大気というか、雲のようすを観測するための衛星です(図1、図2)。
 それから、『Landsat』は特に陸域に興味があり、大陸の観測にテーマが絞られています。それに対して、この海洋衛星『もも』といったもの、あるいは『NOAA』という衛星は、海洋、つまり海、水の温度分布その他にテーマを絞り込んだ衛星です。それ以外にも、『SPOT』は『Landsat』に似た衛星です。
 なかでも『TRMM』という衛星はちょっと変わった特徴がある衛星なので、後で大きく取り上げることとします(図3)。それから、近年、新聞などでよく注目されていますが、『IKONOS』と呼ばれる非常に分解能の高い衛星なども上がっています(図4)。

 また、2002年に打ち上げられた日・米・ブラジル共同の地球観測衛星AQUAは改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)を持ち、やはり水蒸気や雲の観測を得意にしています。さらに、長い準備期間を経て2006年1月に漸く打ち上げられた地球観測衛星『だいち』は今後が大変期待されています。(図5)温室効果ガス観測技術衛星『GOSAT』や日本初の熱赤外線衛星あかりも計画されており、大いに期待されます。また、今後は中国の貢献も重要になってくると思われます。
 衛星にもいろいろな素性のものがあると言いましたが、それは衛星に積んであるセンサーによるものだけではありません。どこの波長をみるかということだけではなく、飛んでいる軌道によっても、色々なものが存在します。普通、気象衛星というのは、地上約36000kmに上げて、静止衛星にします(図6)。静止衛星というのは実際には止まっているわけではなくて、地球の周りを回っているのですが、赤道上に打ち上げ、地球が自転する周期とおなじ周期で地球の周りを回るようにすると、止まって見えるわけです。気象衛星の多くはそうなっています。 日本の打ち上げている『ひまわり』というのは、実は運輸多目的衛星新1号、2号というのが正式名称で、気象観測・気象衛星の機能(気象ミッション)と航空管制の機能(航空ミッション)を併せ持っています。英語名は『MTSAT-1R,2』という名前なのですが、これもやはり静止衛星です。

 それでは次に気象観測衛星以外の地球観測衛星の多くは静止衛星よりもずっと低い700〜1000km程度の高度を飛び、なるべく地球全体を観測するためには高緯度のデータまで取りたいので、極軌道衛星に近い軌道を飛びます。高度が低い分一気に地球全体を俯瞰で見るよりも衛星直下の地域を詳細に観測していきます。そして、何日かかけて地球全体のデータを収集していきます。
 『Landsat』というのは地球観測衛星計画のなかでは一番古いものです。 1972年にスタートした計画で、すでに30年以上続いています。これほど続いている長い計画の衛星も他にはありません。現在は1999年に打ち上げられた 『Landsat7号』が運用されています。科学的、地理学的あるいは考古学的に重要なデータを次々に撮っています。(図7)
 多くの地球観測衛星計画はアメリカが中心にやっている計画ですが、実はヨーロッパが行っている計画もあります。フランスは『SPOT』と呼ばれる、アメリカの衛星に対抗するべき衛星を上げています。特徴は検知センサーとしてCCDを使った初めての衛星でした。CCDとは、今流行のデジタルカメラと基本的に同じものです。ただ、これを打ち上げた当時は今と違い非常に高価だったこともあり、長方形状に絵が取れるわけではなくて、基本的に一列の絵が取れるわけです。それを衛星が進んでいくのにともなって、その一列を順番に撮っていって後で組み合わせて画像にするというスタイルになっています。
 ここ10年程のデジタルカメラの進歩はすごいものです。これらのカメラのCCDをもらってきてつけて、打ち上げたら当時の衛星よりよっぽどいいのが撮れてしまうでしょう。もちろん衛星の画像データもこの10年でかなり進歩してきております。それまでの衛星というのは、先はどの『IKONOS』のように器用にあちらこちらにいって様々なデータを取ることができず、上げたら基本的に真下のデータを取るだけだったのですが、この『SPOT』というのが初めて、27度くらい横を向いてデータが取れるようになりました。今後は欧州宇宙機構に統合されていき、欧州共同のミッションを行う方向になるものと思われます。
 それに対して、ちょっと変わったのがあります。

 それは、ソ連が打ち上げていた『メテオール』という気象衛星です。極軌道衛星と呼ばれる北極南極付近を飛ぶような軌道に気象衛星を飛ばすのは、ちょっと不思議です。これだと絶対に止まりません、どんどん動いていきます。しかし、ロシアは国土が高緯度の位置にありますので、赤道にあげた静止衛星では斜めから見るような感じになって、データがうまく取れないのです。そのために、静止衛星ではなくこういった極軌道衛星に思い切って高度を低くして人工衛星をとばして、動いていてもかまわないからそこでデータをどんどん取るというスタイルにしています。そのかわり、1台では用を成さないので、何個も同時に飛ばして、順に国土上空に来て観測するようにしています。その点『ひまわり』は止まってくれますし、日本は小さな国ですから1個あれば十分です。一方で、決してこのようなビッグプロジェクトに対しては予算が潤達とはいえない日本においては、センサーやロケットの開発のみでなくこのようにトータルな計画自体について創意工夫し、そのユニークさや発想の転換が必要です。次に挙げる『TRMM』はそのような試みのうちの成功例です。

3.新世代の地球観測衛星について
 ここ10年で相次いで打ち上げられた特徴あるいくつかの衛星について触れることとします。
 熱帯降雨観測衛星『TRMM』が1997年に打ち上げられ、2009年までの運用が決定しています。これは、今までお話した衛星とはかなり毛色が変わっています。これは熱帯雨林地方の雨、降雨それからエルニーニョなどで知られているような、海洋の温度を調べることをターゲットに打ち上げた衛星です。普通の地球観測衛星に比べますと積んでいるセンサーの量が多く、5種類あります。これは、アメリカと日本のジョイントミッションで、アメリカのNASAそれから日本の宇宙開発事業団NASDA(現JAXA)、郵政省通信総合研究所(現 独立行政法人「情報通信研究機構」)が技術とお金を出し合って打ち上げ・管理しているものです。特に、降雨レーダーは3次元的な雲の分布を捕らえる事ができますが、通信総合研究所で1970年代より開発を開始し、たいへん苦労してようやくできたものです。飛んでいる高度が350kmと比較的低いために、搭載重量は大きくても打ち上げられるので、このようにセンサーをたくさん積むことができました。特に注目するべきなのは、もちろんこの降雨レーダーです。普通、衛星に積まれているセンサーは、受動的といってやってくる電磁波を受信するだけのものです。しかし、レーダーは自分で能動的センサーであり、線源を持っていて対象物に当てて反射して帰ってくるのを観測するものです。そのためにも、飛行高度は低いほうがいいのです。ただし、分解能は4kmとか50kmとか2.2kmとかでそんなに高くはなりません。
 降雨レーダーの大きな特徴として、水蒸気は無理ですが水滴とか雨雲など水の状態で上空に存在するものからの反射をとらえて、高度方向の情報を取ることができます。従って、雲の内部のどのあたりで雨が発生しているかというようなデータも取ることができます。
 打ち上げ高度は、低く設定されています。普通、地球観測衛星というのは軌道が700km〜1000km弱くらいのものが圧倒的に多いです。それに比べてこれは、打ち上げ高度350kmとその半分以下です。それから、軌道も地球に対して中途半端に斜めに飛んでいます。地球観測衛星の多くは南極店極軌道に近い軌道を通るものですから、地球の高緯度のデータまで取れるのですが、これは中途半端なところを飛んでいますので、日本列島でも東京以北のデータは取れません。赤道との傾斜角が35度ということから、赤道から北緯35度付近までのデータしか取れないことになります。そのかわり熱帯雨林とかエルニーニョのような赤道付近の海洋で発生している現象を集中的に観測するよう軌道設計をしています。地球観測衛星の場合、のちにデータを比較するときのことを考えて、通常は同じ地点は日付が異なっても同じ時間にデータを取るように衛星を打ち上げています。例えば『Landsat』の場合だと、日本のデータについてはどの季節でも必ず9時過ぎぐらいになるような軌道に投入してあります。しかし、『TRMM』の場合は、それ自体諦めています。午後3時のデータになってしまったり、朝9時のデータになってしまったり夜12時のデータになってしまっても全然構わないから、どんどんデータを取るというのが非常に新しい衛星です。『Landsat』計画のスタート時とは違って、今は計算機によってデータを相当補正する事ができるから問題ないというわけです(図9)。

図9  TRMMがセンサーVIRS1日に取得したデータで海洋の温度推定結果を世界地図に張り込んだ例

 さらに、可視赤外観測装置『VIRS』というのは、他の地球観測衛星の持っているセンサーと同様にいろんなチャンネルのデータが取れます。チャンネルごとにデータをとっている電磁波の波長が違います。チャンネル1とチャンネル2は人間の目で見て見られる波長の光のデータですが、それに対してチャンネル4は人間の目で見るよりもすこし波長の長い電磁波の光です。チャンネル1つだけで画像を作っても、ここに雲があるかなとか、ここは海かなとか、こっちは大陸かなとかいうようなことがなんとなくわかるのですが、人間は色の情報を見ることができるわけですので、チャンネル1つだけで画像を作るのではなく、例えば3種のチャンネルのデータを使って、もっと情報の多い一枚の画像にして観測することができます(図8)。

図8 TRMMのセンサーVIRSが1日に取得したデータを世界地図に張り込んだ例

 よくRGBという言葉を聞くとおもいますが、これは光の三原色をさしております。この各チャンネルに異なる観測チャンネルのデータを当てはめて人工的にカラー画像を作る事がよく行われます。しかし、肉眼でみることのない波長のデータを画像化に使うと、できた画像の色合いはエキゾチックなものになったりします。また『VIRS』のデータでは、海面温度の分布というのを計算することも可能です(図9、図10)。

図10 Trmm/Pr,VIRSによる台風解析例:水平断面図と垂直断面図

 高分解能衛星『IKONOS』が1999年に打ち上げられました。分解能は1mで、非常な高分解能なデータを取ることのできる衛星です(図11)。これは、冷戦時代はスパイ衛星の技術でした。しかし、冷戦が終了してアメリカで新しい法律ができました。以前ですとスパイ衛星に使っていたような技術も規制をゆるやかにして民生品に使っても良いという法律が米国議会を通りました。それを応用して造られた衛星です。『Early Bird』という衛星計画もあったのですが、互いに打ち上げ失敗を経験した末、結局、先陣争いはIKONOSに負けてしまいました。この計画は現在は『Quick Bird』として継続しています。長年リモートセンシングを支えてきたといっても過言ではない『Landsat』の分解能は3号までは80m、5号からは30mとされています。『IKONOS』のデータの分解能は一応1mと思ってください。

図11 ランドサットとイノコスのデータ分解能の比較

 おそらく、計算してみると1mを少し下回る位となります。 80数cm程度になります。分解能というのはそれくらいの大きさのものなら何とか見分けられると言う意味です。

4.リモートセンシングはどのように役立っているか
 実際にどういうことにリモートセンシングというのが役に立つかということをお話したいと思います。
 自分がこれから説明すること以外にも利用範囲はもっとたくさんあります。リモートセンシングというのはどんな分野よりも学際領域であると言われます。その理由は、非常に新しい分野であるので、もともと違うことをしていた人がこの分野にやってきたという状況もありますが、それ以上にこの技術が多分野に可能性を秘めているということを指しています。例えば私は日本リモートセンシング学会に所属していますが、この学会で発表をする人は、例えば土木の専門の人、あるいは建築の人、その一方で完全な科学系の人、例えば地学ですとか考古学の人とか様々な分野の研究者がいます。研究のベースが、地質学の人や、私などのように物理学の人もいます。それから、今まで見たように非常に画像が豊富に利用されていますので、画像処理関係の人もたくさんいます。画像処理というのは、電気関係のところでよく研究されていますし、情報処理ですとか情報科学をやっている方たちも多数参加してきています。そういう意味からも非常に広い学際領域です。従って、普通の学会ですと、そこで発表する際には、その学会でないとまず何を言っているのかわからないような専門用語をフルに使って、そのかわり正確に深く情報を伝えることに心を砕くのですけれども、日本リモートセンシング学会で発表する際には、あまり極端に専門性の強い用語は避けるように言われています。そうでないと情報処理の人にはよくわかっても建設の人には何を言っているかわからないということが起こるのです。そのくらい応用分野は広く、反面それら全体を把握することはとても無理です。
 植物の生育・分布状況をみるのに植生指数と呼ばれるものがあります。これも、やはりリモートセンシングのデータからつくります。植生というのは実は、私たちの目から見ますと普通は緑と言いますが、実は我々の目に見えない、赤より少し波長の長い光のところで非常に激しい反射を返します。ですから、もし人間がもう少し波長の長い光まで見ることができたとしますと、植生は緑できれいだな、とは多分言わないと思います。その場合には赤くてきれいだなと、言っているのではないでしょうか。
 その近赤外の赤外線の波長のデータと、我々が目で見ることができる赤のデータを使いまして、一種の指数を計算すると、そこから今のような植生指数が出てきます。つまり赤い色で見比べて、近赤外線での反射が非常に強い場合、そこでは植生の活性炭が高い、あるいはバイオマスが多いことがわかります。植生に対してかなり我々人類は厳しいことをしていると思われますが、例えばアフリカの場合ですと植生の後退は、かなり人為的な要素も強いと言わざるを得ません。また、南米の場合もやはり人為的な要素がかなり強いのです(図12)。そこに暮らしている皆さんの人口の推移や生活手段が原因になっています。

図12 1973年と1986年でのアマゾン川流域での熱帯雨林の比較検討:道路(筋)は数本だったが、1986年にはまるで魚の骨のように広がり、また焼き畑をしている白い煙や焼き畑をし終え焼け野原になった赤い点々(土壌が露出している)も見える。
 彼らに、もう木を伐るのはやめろと、木を切るのをやめて別なことをしろ、といっても彼らにはその術がありません。結局その森林を焼いて畑にして、作物をとり、そこで取れなくなったらまた隣へ行って、そこを切り開いてまた燃やして作物を取るというようなことを繰り返しているのです。残念ながら、教育もあまり普及していませんのでそれ以外の作物の作り方すら彼らはよく知らないわけです。
 次に、先ほど申し上げた『TRMM』による海洋温度の分布について、調べた結果があります。1998年、太平洋東側赤道付近温度が上がっていましたが、これがこの10年で最も顕著に現れたエルニーニョと呼ばれる状態です。赤道付近では東風が激しく吹いていますがそれが特に強いと、赤道付近ではむしろ少し温度が下がって、その少し南北でむしろ温度が高いという状態になります。ところが1998年も終わりごろになってきますと、逆に太平洋西側赤道付近のフィリピンとか日本の近郊の温度の方がどんどん上がっていきます。これはラニーニャと呼ばれる状態です。こうなると、台風が日本のすぐそばで発生して、すぐに日本に上陸するというようなことになります。日本にどんどん台風がきたころの状態がこれです。
 実はエルニーニョもラニーニャもそれだけでは異常気象というほどのものではありません。数年に一度程度、昔から繰り返されている太平洋の温度分布の変動がここで起きているだけだという意見もあります。ただ変動の幅が、近年になって非常に大きくなってしまったとも言われていますので、その辺は意見の分かれるところです。ただ、起きても数年に一度の現象であり、しかも20世紀も半ば以降でないときちんとしたデータがありません。従ってそれについて少なくとも科学的に何かものを言うというのは難しいものがあります。
 ただ、科学的に証明できるのを待っていたのでは、その時には環境破壊というのはもう決定的に進んでしまうということになります。従って、怪しきは罰せずというのは残念ながら環境問題の場合にはあまりに悠長なことになってしまいかねません。環境問題が進んでいる場合、これが怪しいというような場合には、とりあえず手を打つというような形が現在の状況かと思います。
 太平洋の海面温度の変動が激化している原因として疑われているものの1つが、大気中の二酸化炭素の増大です。我々が手にしている過去のデータを観る限りでは、二酸化炭素が増大すると変動が大きくなるという相関があるようにも思えます。これに対して、コンピュータでシミュレーションによる研究も行われています。海洋の水の運動ですとか、あるいは空気の対流ですとかすべてモデル化してシュミレーションします。日本には地球シミュレータと呼ばれるスーパーコンピュータがあり日本で研究されているモデルもいくつかありますが、それはかなり優秀なものです。そのモデルのシミュレーションによると、どうも二酸化炭素の量が増えても海洋温度の変動というのにはこれほどは違いがない、というのがその結果のようです。科学的にこのような因果関係をつけるというのはじつは大変なのです。
 それで最近の傾向としては、むしろ環境問題に関する限りは怪しいと思ったら、とりあえずその原因は絶つ方向で努力するというのが現在の方向性ではないでしょうか。大気中の二酸化炭素量が増えると温暖化に向かうのではなくて、むしろ寒くなるつまり氷河期に向かうのだという主張の研究者もいらっしゃいます。それはそれで確かにそれなりの科学的議論があってのことです。海洋の水の運動を、深度方向の運動も考えてよく研究している人からの意見です。深いところの水と表面に存在する水がやはり非常に長いサイクルで入れ替わっているということが、最近になってわかってきました。その運動に、いろいろな環境に対する人為的な要因が影響して、その所為で海流、例えばメキシコ湾流が有名ですが、メキシコ湾流の流れを含む海流全体のシステムが変わってしまう可能性があるという主張をしています。ヨーロッパ国々の多くの緯度は北海道、樺太くらいですが、比較的温暖なのはメキシコ湾流と呼ばれる暖流のおかげです。ところがその流れが大きく変わってしまいますと、少なくともヨーロッパはまた氷河期に帰る恐れがあるわけです。
 そのように科学的に根拠を挙げて、科学者全体を説得して、そうだ、と言わせるのは意外に難しいのです。しかし、温暖化に向かうにせよ氷河期に向かうにせよ、環境がそういう風に変わってしまうのは大変な問題ですので、いずれにせよ二酸化炭素の排出はやめようということが決まって、1997年に京都で気候変動枠組締約国会議が開かれ“京都議定書”という取り決めの中で、各国の資産化炭素の将来の排出量を押させていこうと決めたのでした。

5.ノンパラメトリックな手法によるリモートセンシングデータの解析法
リモートセンシングデータにとって最も重要な利用手段は、まちがいなく地上に存在するものが何かを知りたいというものでしょう。これは地表被覆と呼ばれるものですが、それを何百キロも上空のデータから確定させるのはそんなに簡単な事ではありません。原理的にはそこが海か陸かも事前の調査無しには判定できないことになります。火星やさらに遠くの太陽系の惑星に向かった太陽系探査機のことを思い出してみてください。基本的にはその惑星に着陸することがなくても、水があるかもしれないといったことを調査する事ができます。これには、事前に水や岩石、地球ですから木や草などの植生の電磁波の反射パターンを調べておく事によって可能となります。太陽系探査機もリモートセンシングに用いる地球観測衛星も、通常いろいろな波長の電磁波を観測する事ができるセンサーを搭載していますから、観測前にあるいは観測後でも必要なら同等のセンサーを地上で用いてデータを取る事ができます。このように、リモートセンシングデータを役立てるために、人工衛星搭載のセンサーと同等のもので地表で観測して得られたデータのことをグラウンドとルースといいます。このグランドトルースデータを基にして、人工衛星のデータの識別・分類をするのが、先ほども述べたように利用方法としては最も頻度が高いのは間違いありません。
しかし、これにも落とし穴があります。地球観測衛星は決して地表に降りて直に対象物を観測してはいません。上空から大気を通してデータを取っていることになります。これがまた曲者で、大気は太陽光をそして地球からの反射光・そして放射光を無視できないほど吸収します。また自らもある程度放射をします。さらに大気は気体ですから圧縮性があります。地球観測衛星の飛んでいる高度では、大気はないと考えてかまいませんが、下に行くほど自らの重みで圧力が高まり自らの密度も次第に濃くなっていきます。したがって、均一からはほど遠い高度に対しての密度分布をしていますので、それを考慮しなければなりません。さらに、悪いことに気体ですからじっとしていてはくれません。太陽からの放射エネルギーや地形等の影響を受けて地球規模の3次元的な対流を起こすのみならず、局所的な気象現象にもかかわるような相当小さな規模の変動も存在します。しかも季節的変動も、エルニーニョの原因と考えられている赤道上の風の変化のような規則的といえないような変動も存在します。このような要素を、必要なら詳細にわたるまで考慮して実際の大気がどうなっているかを知ることは、地球シミュレータのある現在でもなかなか大変です。そこで、気象学者等が構築してきた“大気モデル”を使い大気による観測データへの影響を考慮することにしています。このモデルにも、どこまで詳細に考えるかで種々のバージョンがあり、厄介なことになってしまいがちです。
末端の民間のユーザーがこのような方法を積極的に採用するとは考えにくいことになってしまいます。そこで、実用上簡便な方法としては、グランドトルースとの比較検討を避けて、他の地表被覆がはっきりわかっている人工衛星のデータを用いてそのデータと比較検討して判定してしまう方法が一番使われていると思われます。
データを利用する際には、特定の情報を画像強調したものから人の視覚によって画像判読する場合と、画像上の物理的情報までコンピュータによって精密に読み出して利用する場合とがあります。前者は、たとえば地表被覆を目で読みとれば十分利用できるような場合で、“画像計測”と呼ばれる手法が近年見直されていることから、今後の発展が期待できます。定量的精密測定を必ずしも必要としない場合や、一目でわかる事が末端のユーザにアピールするような場合も多いので、こ無視することはできないでしょう。台風の勢力などを、皆さんに周知する場合などにはたいへん効果があるのは間違ありません。しかし、人の視覚には錯覚と呼ばれる客観性に疑問が持たざるをいえない重大な欠点があります。リモートセンシングが今後より詳細な定量的・客観的方向性を目指すなら後者の重要性が落ちることはないと思われます。
リモートセンシングデータは、多重スペクトルの多次元ベクトルデータと見ることもできます。したがって、リモートセンシングの黎明期では他の多次元ベクトルデータを扱う分野と同様に、最尤法等に代表されるような教師付き分類法、あるいはクラスター法のような教師なし分類法とそれらの改良型にあたる分類法を適応していました。
教師付き分類法というのは、分類するべきカテゴリーのデータ(平均値や標準偏差等)を教師データとして与えて分類をさせるもの、教師なし分類法の場合は、分類するべき最終クラスター数のみを与えるが、教師データに当たるものは与えずに分類を実行するものを言います。このような分類法の多くは、上の例でも平均値や標準偏差を要求していたことからもわかるように、ベクトルデータがそれらの多次元変数空間の中でガウス分布に従うことを仮定しています。
既存の分類法は実験室でたとえば温度を変えて測定するなら、他の変数である圧力等は変化しないように十分気配りして実験してデータを集めるでしょう。たいへん純化した環境で測定されたデータですので、真の値の近くに平均値が落ち着き、測定の際の偶然誤差により各測定値が平均値の回りにばらつくことにより、多くの場合ガウス分布によく従う事が期待できます。しかし、リモートセンシングデータの実際は、そのような理想化されたデータ分布状態からは程遠いものである事が多いのです。地球上では絶えず雑多な自然現象が起きていて、制御することはできません。また、人の居住地区の近くでは人間の人工的な活動もデータに影響しているかもしれません。気象条件が異なると大きくデータが変化することも知られています。実際に調べてみるとリモートセンシングデータの分布は、そんなに素性の良いものではない事がわかります。
このように、リモートセンシングデータはそのカテゴリーの分布が事前に推定しがたい事例の典型と言う事ができます。それならノンパラメトリックな手法なら機能する事が期待できます。そこで、私達は人の学習機能をコンピュータにモデル化したニューラルネットワークのうち、とくに分類手法に適していると思われる自己組織化ネットワークを用いてデータ分類手法を構築しました。
修正対抗伝搬法(MCP: Modified Counter-Propagation)は対抗伝搬法(CP:Counter- Propagationの競合層上のユニットをSOM に拡張した三層からなるニューラルネットワークです。MCPは多クラス分類問題を想定して設計されており、入力層上のノードから競合層上にあるユニットへの結合荷重ベクトルは、多次元の入力データを二次元空間にデータの相似性に応じて埋め込み写像したSOMを表現します。更に競合層上のユニットから出力層のノードへの結合荷重はそのユニットが代表するクラスのSOM上の頻度情報を表現しています。つまり、MCPは入力層と競合層との間にSOMを用いて二次元圧縮されたデータの相似性投影分布情報を蓄えています。それと同時に、競合層と出力層の間にデータの頻度分布情報を蓄えるのです。これらの結合荷重ベクトルは競合層ユニット配列平面上に可視化する事が可能です。つまりMCPによりデータの相似性と頻度分布を解析することが可能となり、より定量的かつ柔軟にカテゴリー分類できることが期待できます。実際、種々の制限はありますが96%の分類精度が実現できています。

6.最後に
 最後に付け加えますと、基本的にリモートセンシングが教える地球に対する情報というのは、非常にネガティブなものが多いと思います。何か壊れるとか、何か後退してなくなるとか、環境が大きく変わってしまうとか、地球を離れた場所からきちんと客観的に見えてくるのは、残念な話ばかりです。しかし、だからこそこの技術が大事なのではないでしょうか。どうしても地表で暮らしていますと、日ごろの暮らしがありまして、どうしても私達は周りのものしか見えません。そうすると環境問題云々言うよりも、今日、明日の生活が大事と思ってしまいます。ところが、こうして地球を客観的に見ることができると、自分が偉くなるとか大金を稼ぐとかよりも、よっぽどこの地球というのが大事だという気持ちにならないでしょうか。ミッションから帰ってきた宇宙飛行士が異口同音に述べる言葉に、「地球というのは宇宙から見るととてもきれいで青く光っている、それに対して反対側を見ると星も良く見えず基本的に暗黒で何にもない」というのがあります。月を見ても寂寞とした感じですし火星もそうです。太陽などはもう人間なんか蒸発してしまうような、6千数百度の世界です。それに対して地球というのはいかに貴重なものかというのがわかるというのです。しかも、非常に壊れやすそうに見えると言っています。
 我々宇宙飛行士ではありませんのでこのようなことを実体験はできませんが、リモートセンシングの技術を使えば疑似体験ができます。皆さん、やっぱり地球はきれいだなと感じられると思います。そういう意味でリモートセンシングというのはこれからも皆さんにかわいがっていただきたいと思います。


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